【実録:シーズン2】第2章:三つの壁と、計画された略奪

人生

三つの壁

一つ目の壁:親権

調停という名の密室で突きつけられる現実は、想像以上に生々しく、そして残酷なものだった。長方形の机上に並べられた今日の議題は大きく分けて三つ。「親権」「面会交流」、そして「財産分与」。これらは離婚調停において避けては通れない三大要素だが、そのどれ一つとして一筋縄でいくものなどない。

一つ一つの決定が、私と愛する娘のこれからの人生を根底から覆すだけの破壊力を秘めている。私は調停室の固い椅子に深く腰掛け、目の前に立ちはだかる三つの巨大な壁を静かに見上げていた。

まず、第一の壁であり、私がこの泥沼の戦いに挑む最大の理由でもある「親権」。これについては前章でも触れた通り、そして調停委員にも明確に伝えた通り、一歩たりとも譲るつもりはない。これは相手と駆け引きをするための交渉カードではないのだ。私の人生の絶対的な中心軸であり、娘の未来を守り抜くための最強にして唯一の盾である。

ここが揺らぐことは、天と地がひっくり返ってもあり得ない。相手がどれほど理不尽な要求を並べ立てようとも、同情を誘うような芝居を打とうとも、親権だけは死守する。

その決意は調停の回数を重ねるごとに、より強固な岩のように私の心の中で固まっていた。

二つ目の壁:面会交流

一方で、第二の壁である「面会交流」については、私は少しだけ感情論を脇に置く必要があると考えていた。もちろん、これまで娘をまるで人質のように扱い、私との面会の約束を平気で反故にして精神的に追い詰めようとしてきた相手方のやり方には、今思い出しても煮えくり返るような怒りがある。

しかし、面会交流の本質は「親の権利」ではなく、純粋に「子供の権利」なのだ。娘が両親それぞれの愛情を感じながら育つ環境は、可能な限り守られるべきだろう。相手方がこれ以上、娘を己の都合の良いように操作し、交渉の道具として悪用するような卑劣な真似さえやめるのなら。

そして、お互いが「娘の心への配慮と安定」というただ一点において妥協し合えるのなら、必ずどこかに現実的な落とし所は見つかるはずだ。私だって、不毛な親同士のいがみ合いで、これ以上愛する娘の心をすり減らしたくはない。

面会交流については、冷徹な大人の話し合いで解決への糸口を探る用意があった。

三つ目の壁:財産分与

だが、問題は第三の壁、「財産分与」だ。これが途方もなく厄介で、底なしの泥沼の様相を呈していた。

私たち夫婦の間には、婚姻期間中に購入した持ち家がある。当然のことながら、そこにはまだ数十年単位で重くのしかかる住宅ローンが存在している。かつては家族の笑顔が溢れるはずだったその家は、今や冷え切った空気だけが漂う空箱となり、同時に巨大な負債の象徴へと成り果てていた。

家という流動性の低い不動産と、残されたローン。これを現在の価値でどう評価し、どのように清算していくのか。どちらが住み続けるのか、あるいは売却して残債をどう分担するのか。それだけでも、頭を抱えたくなるような難題だ。

しかし、私を真の絶望と、それを瞬時に焼き尽くすほどの激しい怒りへと駆り立てたのは、不動産ではなく「現金資産」の実態だった。

結婚してから別居に至るまでの長い間、私は一家の大黒柱として稼ぐことに専念し、金銭の管理については完全に相手方に任せきりにしていた。私名義の給与振込口座も、将来のための預貯金口座も、すべての通帳と銀行印は彼女の手に委ねられていた。

日々の生活費のやり繰りから貯蓄まで、妻が家族の未来のために適切に管理してくれている。そう信じて疑わなかった。私の甘さと言われればそれまでだが、夫婦というものはそういう信頼関係の上に成り立つものだと本気で思っていたのだ。

あの日、別居が強行された日。相手方は家を出て行く際、申し訳程度に私名義の通帳だけをテーブルの上に無造作に置いていった。「あなたの分の最低限のものは残しておいたから」とでも言わんばかりの、あまりにも白々しく、わざとらしい置き方だった。

誰もいなくなった静まり返った部屋で、私は重い足取りでその通帳に近づき、手に取った。そして、何気なくページを開いた瞬間の、あの全身の血の気が一気に引いていくような悪寒は、今でも鮮明に思い出すことができる。

印字された最新のページ。そこにあるべき「これまで築き上げてきたはずの家族の資産」の数字を探した私の目は、ある一行に釘付けになったまま動けなくなった。

最終残高、『30万円弱』。

……は? 何かの間違いだろう。思わず通帳を裏返し、別のページをめくってみたが、現実は残酷なまでにその数字を示し続けていた。我が家の、これまで何年もかけて貯めてきたはずの全財産が、たったの30万? 冗談ではない。

私がこれまで身を粉にして働き、毎月欠かさず口座に振り込まれ続けていたあの多額の金は、一体どこへ消えたというのか。

この瞬間、すべてが腑に落ちた。「使途不明金」などという生ぬるい言葉で片付けられるレベルの話ではないのだ。

これは明確な悪意を持った「略奪」だった。

相手方は、突発的に家を飛び出したわけではない。別居のずっと前から、おそらく何ヶ月も前から水面下で周到に計画を進めていたのだ。少しずつ、あるいは大胆な手口で、私に気づかれないように共有財産を自分の個人的な口座へ、あるいは私の追跡が困難な隠し口座へと移し替えていたに違いない。

前回の調停で彼女の口から語られた「子供の財産は手をつけないでおきましょう」というあの偽善に満ちた提案。あれも結局は、自分がすでに抜き取って隠し持っている金から目を逸らさせ、さらに手元に多くを残すための卑劣なカモフラージュに過ぎなかったのだ。

別居のタイミングすらも、この財産の移動がすべて完了し、彼女にとって一番有利な状況が整ったことを見計らってのものだったのだろう。その用意周到さと、計画を進めながら何食わぬ顔で私と生活を共にし、笑顔すら見せていたその図太い神経に、私は形容しがたいおぞましさと、底知れぬ人間への不信感を覚えた。

目の前の調停委員は、提出された不完全な資料を見ながら「どうやってこれを分けましょうか」といった顔をしている。馬鹿にするな。分けられる財産など、最初からここに残されていないのだ。相手が全てを持ち逃げしたのだから。

だが、相手は一つ、決定的な勘違いをしている。

私から全てのお金を奪い去り、経済的な不安を煽って困窮させれば、私がいずれ疲れ果て、親権もろとも心が折れて泣き寝入りするとでも思ったのだろうか。金銭的な圧力をかければ、私が思い通りに操れるとでも?

ふざけるな。

私は絶対に負けない。

どれほど巧妙に隠そうとも、現代の金融システムにおいて金の流れというものは必ずどこかに痕跡を残す。過去の取引履歴の徹底的な洗い出しでも、弁護士を通じた調査でも、私はあらゆる手段を駆使して、彼女が隠し持っているはずの共有財産を地の底からでも引っ張り出してみせる。

残高30万の通帳を残して、計画通りに逃げ切れると思ったら大間違いだ。住宅ローンの処理も、消えた現金の追及も、1円の単位までガラス張りにするまで絶対に妥協はしない。

これはもはや、単なる離婚の条件交渉ではない。私のこれまでの人生と労働に対する冒涜への、そして何より、娘の未来の資金を私欲のために不当に奪い取ろうとする悪意に対する、絶対に退けない徹底抗戦なのだ。

相手が用意した狡猾で身勝手なシナリオは、私がこの手で全て叩き壊す。残高30万というふざけた数字が印字された通帳の感触を思い出しながら、私は調停室の静寂の中で、煮えたぎるような闘志を胸に次なる反撃の矢を深く番えていた。

(第四章に続く)

タイトルとURLをコピーしました