【実録:シーズン2】第3章:茶番の資産開示と、暴かれた長年の隠蔽工作。そして最大の防壁「親権」

人生

資産一覧表

調停室の淀んだ空気は、何度通っても慣れることはない。窓のない密室、無機質な長机、そして感情の読み取れない調停委員たちの顔。ここは、かつて共に人生を歩むと誓った人間同士が、互いの人生を切り刻み、奪い合うための解剖台だ。

今日の議題は、双方の「資産一覧表」の提出と確認。 私は固い長椅子に深く腰掛け、目の前に無造作に滑り出された数枚の紙切れを見つめていた。相手方が提出した主張書面と、そこに添付された財産目録。これからの私と娘の運命、そして私がこれまで流してきた汗と時間の結晶が、この薄っぺらい紙に記されているはずだった。

「……では、こちらが相手方から提出された資産のリストになります」

調停委員の事務的な声が遠くに聞こえる。私は手元のリストに目を落とし、書面を一行一行、目で追い始めた。

しかし、数行読み進めただけで、私の思考は急速に冷却され、同時に腹の底から黒く重いマグマのような怒りが沸き上がってくるのを感じた。活字として印字されている数字の羅列が、あまりにも現実離れしていたのだ。

長年の隠蔽工作

「……なんだ、これは」

声に出すまいと必死で奥歯を噛み締めた。顎の筋肉が軋む音が、自分の頭の中にだけ響く。 記載されている資産総額。それは、前章で触れた「残高30万の通帳」というふざけた事実の延長線上にある、さらに巨大な嘘の塊だった。誰の目に見ても明らかな、あまりにも不自然で、歪な数字の羅列。

私たちは夫婦共働きだった。決して贅沢三昧な暮らしをしていたわけではない。二人で働き、それなりの収入を得て、長年にわたって家計に金を入れてきた。住宅ローンの返済や日々の生活費を差し引いたとしても、手元に残るべき現金資産は、誰がどう計算してもこんな「これっぽっち」の額になるはずがないのだ。

日頃から経済の動向に目を配り、複利や利回りといった数字の持つ意味をシビアに分析してきた私の目をごまかせると思ったのだろうか。資金の流れには必ず論理があり、結果としての数字には過程が伴う。収入と支出のバランスシートを頭の中で組み立て直せば、このリストに書かれた数字が「意図的に操作された結果」であることは一目瞭然だった。

怒り、そして呆れ

ふざけるな。どこまで私をコケにすれば気が済むんだ。

この瞬間、私の中でバラバラに散らばっていた違和感という名のパズルのピースが、一つの恐ろしい絵を完成させた。

相手方は、別居の直前になって慌てて金を持ち出したわけではない。

「何年も前から」だ。

おそらく数年単位の長い時間をかけて、周到に、計画的に、そして極めて巧妙に、夫婦の共有財産を自分の懐へと移し替えていたのだ。毎月の生活費の中から少しずつ、あるいは何かの名目をつけて大胆に。私に気づかれないよう、少しずつ少しずつ、彼女個人の隠し口座へと資金を横流ししていたに違いない。

私が家族の未来を信じ、一家の大黒柱として身を粉にして働き、金銭の管理を完全に彼女に委ねていたその裏で。彼女は虎視眈々と「私から逃げ出すための資金」を、私の稼いだ金で構築していたのだ。

一緒に食卓を囲み、何気ない日常の会話を交わし、時には笑顔すら見せていたあの長い年月。その間ずっと、彼女の頭の中にはこの「略奪計画」の青写真があり、着々と実行に移していたのか。その用意周到さと、計画を進めながら何食わぬ顔で生活を共にしていた図太い神経。

恐怖、そして悍ましさ

人間の持つ底知れぬ悪意と執念を前にして、私は恐怖すら通り越し、ただただ形容しがたいおぞましさを感じていた。

目の前の調停委員は、提出されたその「茶番のリスト」を真に受け、さも公平な顔をして「さて、これをどう分けましょうか」という空気を出している。

もう、いいかげん馬鹿馬鹿しくなった。

こんな虚偽と隠蔽で塗り固められた紙切れをベースに、大人の対応で「話し合い」などできるはずがない。相手は最初から誠実に財産を分ける気など毛頭ないのだ。調停という公の場にすら、平然と嘘の数字を出してくる人間に対して、温情や妥協など微塵も必要ない。

私が長年かけて築き上げたものを、不当に奪い去ることは絶対に許さない。隠した金は、1円残らず地の底からでも引っ張り出してやる。現代の金融システムにおいて、金の移動履歴を完全に消し去ることは不可能だ。

弁護士を使い、職権で過去の口座履歴や金の流れを徹底的に洗い出し、とことん追求してやる。これはもはや、単なる離婚交渉ではない。私のこれまでの人生と労働に対する冒涜への、徹底抗戦だ。

だが、この怒りに震えるような財産分与の泥沼すら、次に立ちはだかる壁に比べれば、まだ「物理的な数字のパズル」に過ぎないのだ。

親権

私にとって、そしてこの離婚調停において、絶対に越えなければならない、そして何があっても一歩たりとも譲れない最大の防壁が残されている。

「親権」だ。

相手方もまた、親権については一歩も引く気配を見せなかった。 共有財産は周到に隠し持ち、その上で娘の親権も渡さない。相手の要求はあまりにも身勝手で、自分の利益だけを追求する傲慢なものだった。

だが、どれほど相手が厚顔無恥に迫ってこようと、私にとって娘の親権だけは、自分の命を削ってでも守り抜くべき「絶対領域」である。金は奪われたら取り返せばいい。数字は論理で崩せる。しかし、娘の親権は違う。これは交渉のカードなどではなく、私の人生の最も本質的な部分であり、生きる理由そのものなのだ。

ここで私が折れれば、娘の未来は、己の欲望のために平気で嘘をつき、他人の財産を周到に奪い取るような人間の手によって歪められてしまう。それだけは、天と地がひっくり返っても阻止しなければならない。

親権が決まらない限り、離婚は成立しない。それはつまり、この泥沼の調停が永遠に終わらないことを意味している。

金銭の徹底追及という終わりの見えない発掘作業と、決して譲れない親権という絶対に動かない壁。四方八方を強固な壁に囲まれたようなこの息詰まる密室の中で、私は目の前の茶番のリストを冷たく見下ろしながら、煮えたぎる闘志を静かに研ぎ澄ませていた。

この強固な壁を打ち崩すため、私は次なる一手をどう打つべきか。深い思考の海へと、私は一人潜っていった。

(第四章に続く)

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